れ づ れ

 

            

秋に飛ぶホタル、幻想の世界へ

−朝日新聞【声】掲載−


 
 経験のない猛暑に別れを告げ、心地よい風がほおをなで、コスモスの花が心慰めてくれる季節である。夜のとばりが下り始めるころ、あっちに一筋、こっちに一筋、黄緑色の光が舞い、幻想の世界へいざなう。
 ここ長崎県対馬では、ホタルが秋にも発生する。その名を「アキマドボタル」という。
 日本では対馬にのみ生息するもので、朝鮮半島や中国にも分布している。秋に発生する大陸系のマドボタル(窓蛍)なので、この名がついた。
 大形のホタルで、その昔、中国(晋)の車胤(しゃいん)が「蛍の光」で学んだ故事に興味を抱き、ポリ袋に十数匹入れて試してみたことがある。確かに本が読めるほどの明るさであった。
 陸生のホタルで、草原や、やぶなどでごく普通に観察できる。明滅をほとんどせず、光を放ちながららせん状に飛び回るオスの姿には、魅せられてやまない。保護に努めたいものである。
 一方、メスはといえば、羽が退化していて飛べないので、草むらやコケの上、石垣などでひときわ明るい(ボーとした)光を放ちながら、オスを待ち続けている。
 9月中旬から10月中旬にかけて、全島で観察できるアキマドボタルは、まさに対馬ならではの秋の風物詩である。      1994/9

                 ※ ( )は、本稿コピー時に、註加筆

 

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