なんじゃもんじゃランド

　

ありねよし対馬の渡り 海中(わたなか)に幣(ぬさ)取り向けてはや帰り来ね
嶺々の続く対馬のその海中に幣を捧げて無事に早くお帰りください。

対馬の嶺は下雲あらなふ神(かむ)の嶺にたなびく雲を見つつ思はも
対馬の低い山には下雲はない。神の嶺（寝）にたなびく雲を見つめてはおまえをしのぼう。

百船(ももふね)の泊(は)つる対馬の浅茅山(あさじやま)時雨(しぐれ)の雨にもみたひにけり
多くの船が泊まる港の対馬の浅茅山は時雨の雨に美しくもみじしたことよ。

天(あま)ざかる鄙(ひな)にも月は照れれども妹(いも)そ遠くは別れ来にける　　　　　　
天空遠い鄙（いなか）にも都と同じ月は照っているけれども、妻こそは遠く別れて来たことだ。

秋されば置く露(つゆ)霜(しも)にあへずして都の山は色づきぬらむ　　
秋になると降りる露霜に堪えられず、都の山は今頃はもう色づいてしまっていることだろう。

あしひきの山下(やました)光る黄葉(もみちば)の散りの乱(まが)ひは今日にもあるかも
あしひきの山がすっかり輝く黄葉のきらきらと散るのは今日この日であるのだなあ。

竹敷(たかしき)の黄葉(もみち)を見れば吾(わぎ)妹子(もこ)が待たむといひし時そ来にける
竹敷の山の黄葉を見るとわが妻が帰りを待とうと言った時が来ていることだ。

竹敷(たかしき)の浦廻(うらみ)の黄葉(もみち)われ行きて帰り来るまで散りこすなゆめ
竹敷の海岸の黄葉よ、私が新羅に行って帰ってくるまで決して散ってくれるな。

竹敷(たかしき)のうえかた山は紅(くれない)の八(や)しほの色になりにけるかも
竹敷のうえかた山は紅で幾度も染めたような色になったことだ。

黄葉(もみちば)の散らふ山辺(やまへ)ゆ漕(こ)ぐ船のにほひに愛(め)でて出(い)でて来にけり
黄葉が散り続ける山のほとりを通って漕ぐ船の美しさをたたえてやってきたことです。

竹敷(たかしき)の玉(たま)藻(も)なびかし漕(こ)ぎ出(で)なむ君が御船(みふね)をい待たむ
竹敷の玉藻をなびかせて漕ぎ出してしまうあなたのお船の帰りをいつと思ってお待ちしましょう。早くお帰りください。

玉(たま)敷(し)ける清き渚(なぎさ)を潮満てば飽(あ)かずわれ行く帰るさに見む　　
玉を敷き詰めたような清らかな渚を潮が満ちてくると飽きることなく私は出航してゆく。帰りにも見よう。

秋山(あきやま)の黄葉(もみち)をかざしわが居れば浦(うら)潮(しお)満ち来(く)いまだ飽(あ)かなくに
秋山の黄葉をかざしにして愛でているうちに浦の潮が満ちて出港の時がきた。まだ十分楽しんでいないのに。

物思(ものも)ふと人には見えじ下紐(したびも)の下(した)ゆ恋ふるに月ぞ経(へ)にける
物思いに沈んでいるとは人に知られないだろう。しかし下紐のように下心に家を恋しているうちに月もたったことだ。

家づとに貝を拾ふと沖(おき)辺(へ)より寄せ来る波に衣手(ころもで)濡(ぬ)れぬ
家への土産として貝を拾うと、沖から寄せてくる波に袖が濡れてしまう。

潮(しお)干(ひ)なばまたもわれ来(こ)むいざ行かむ沖つ潮騒(しおさい)高く立ち来ぬ
潮が引いたならまたもやって来よう。さあ引き上げようではないか。沖からの潮鳴りが高くなりだしてきた。

我袖は手本(たもと)通りて濡れぬとも恋忘れ貝取らずは行かじ　　
私の袖がたもとまですっかり濡れてしまうとしても、恋の辛さを忘れる貝は何としても取ろう。

ぬばたまの妹が乾すべくあらなくにわが衣手を濡れていかにせむ　　
愛を交わす妻が乾かし慰めてくれるべくもないのにこの衣手が濡れてしまえばどうしよう。

黄葉(もみちば)は今はうつろふ吾(わぎ)妹子(もこ)が待たむといひし時の経ゆけば
黄葉は今こそ散り続ける、吾妹子が帰りを待とうといった時も過ぎてゆくので。

秋されば恋しみ妹を夢(いめ)にだに久しく見むを明けにけるかも
秋の夜寒になると恋しくて、妻を夢にだけでも長く見たいのに夜は明けてしまったなあ。

一人のみ着(き)ぬる衣の紐(ひも)解(と)かば誰かも結(ゆ)はむ家遠くして
自分一人だけで着ている衣の紐を解いたら誰がふたたび結ぼうか、家路も遠く。

天(あま)雲(くも)のたゆたひ来れば九月(ながつき)の紅葉(もみち)の山もうつろひにけり
天雲のように漂いつつ来ると九月の黄葉した山もいつか落葉と変わったことだ。

旅にても喪(も)無く早(はや)来(こ)と吾(わぎ)妹子(もこ)が結びし紐はなれにけるかも
旅立つにしてもさ障りなく早く帰って来てくださいと妻が結んだ紐はいつか萎えてしまったことだ。

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